
![]() 司会 武部宏 |
![]() 女優・服飾研究家 市田ひろみ |
![]() 鳥彌三 浅見益子 |
![]() 幾松 久保明彦 |
![]() ちもと 松井明太 |
鴨川納涼床を支える人々が、川床(かわゆか)や京都への想いを語る「鴨川座談会」。第8回目となる今回は、ゲストに女優、服飾研究家として活躍する市田ひろみさんを迎え、「納涼床のおもてなしとその魅力」についてお話しいただき、終始笑顔の絶えない和やかな会になりました。
| 武部: | 川床といえば京都の夏の風物詩ですが、床の魅力を後世に伝えていくにはどうすればいいか。川床はどんな風に変わってきたのか、などお話しいただけたらと思います。 |
|---|---|
| 市田: | これだけ長い時代続いた川床は、規模からしても日本ではほかに無いでしょう。江戸時代の浮世絵にもありますしね。 |
| 久保: | もともとは川の中に床机を並べていたようです。祇園祭の神輿(みこし)洗いのとき、見物客が集まったことから、近辺の料理屋や茶店が床机を持ち込んで注文をとりに行く、という商いが盛んになりました。そのうち、川の中は危ないし、屋形に近い方が便利やし、ということから段々固定化していったようです。大正初期に治水工事で鴨川の西側に禊川ができ、昭和10年の集中豪雨でそのとき出ていた納涼床はすべて流されます。その後、禊川の上に高床式の床を出す、現在の姿が完成しました。 |
| 市田: | この川床は、それぞれのお料理屋さんが自己負担されているのですね。 |
| 久保: | もちろんそうです。メインの床の期間は5月1日から9月30日まで。6月から始めはるところもあります。細かく分けた許可申請を組合で出しています。 |
| 市田: | 台風とか大変ですよね。 |
| 久保: | 苦労するところですね。 |
| 市田: | 雨のとき、食事の最中に雨が降ってきて、パーっと逃げたりした思い出もありますね。 |
| 武部: | あれは早いですね。見事な早業です。 |
| 市田: | あれはもう特技というか、技ですね。 |
| 久保: | 長いゴザを使こてはるところやったら、2、3回軽く手巻きしといて、さっと立てたらすーっとゴザを巻き込んでいく。その手際のよさといったらまるでゴザが生きているようです。 |
| 武部: | 市田さんにとって川床とはどんな存在ですか。 |
| 市田: | 昔は特別な人しか行けない、上等なとこ、というイメージがありました。映画のロケもしましたね。東京のお客さんとかあると、ご案内するのはやっぱり夏は川床ですね。 |
| 武部: | 特別の想いなどありますか。 |
| 市田: | いやあ、もう全部特別の想いですね。若い人はご存知ないでしょうが、昔は河原を新内さんが三味線弾いて門付けして歩いてはったんですよ。虚無僧のような格好をしてね。 |
| 久保: | ありましたね。でも、もうなくなって随分経つのでは。 |
| 市田: | 何とか復活させたいですね。風景として。 |
| 松井: | 確かに、新内流しは川床に合っていますね。 |
| 久保: | おひねりみたいなものをね。 |
| 市田: | そうそう床からね。 |
| 久保: | 下から網が出てきたりもしましたね。 |
| 全員: | そうそう。 |
| 松井: | 昔を知っている人が、川端通に京阪電車が走っているのも良かった、とたまに言われますが、でもやっぱり今の方がずっと良いですな。 |
| 武部: | 川床の魅力の今昔。その中で特に何を感じますか。 |
| 浅見: | そうですね。昔は私とこではお馴染みさんとご紹介の方だけで商いしてたみたいで。おいでになってお風呂に入っていただいて、お着替えになって。そのころはクーラーはありませんので、風が冷たくなる7時半ごろから床でお食事されたり、芸妓さんを連れてこられたり。そういうのが昔の床でございました。でも、私の代になりましてからは、皆さんに川床を愛していただきたいと思うので、ご紹介なしで皆さんに来ていただいています。おじいちゃんと来たことがある、とか、お父さんと昔来たんえ、とかおっしゃいます。最近は若い方もお行儀がよくてマナーもよくなりました。 |
| 武部: | そうですか。若くない方はどうですか。 |
| 浅見: | それはもう、きちんとした服装でおいでになります。年代ではなく、ひとつ困ることは、予約しといて何の連絡もなしに来られへんことですね。最後まで、ぽつんとお席が空いて。お断りしている方もあるのに、それは心苦しい限りです。 |
| 武部: | 世代を超えて大勢の方に愛される、親しまれる川床の魅力は何だと思われますか。 |
| 市田: | 暑くても風が吹いても、やっぱり自然の空気の中にいるってことが最大の魅力ですね。今はどこに行っても冷暖房。自然の風を感じるときが少ないですものね。 |
| 浅見: | お客様もそのように言われます。この自然の風でお食事するのは良いなあ、とね。 |
| 久保: | 川床はエコでもあるのです。温暖化防止にも貢献しています。二条から五条までの2.5キロの間の90軒すべてがクーラーをかけて室内でおもてなししたら電気代が膨大にかかります。ということはCO2の排出も大きい。それが川床だとクーラーを使わず自然な環境でおもてなしでき、お客様も喜んでくださる。今の流れにぴったりじゃないですか。 |
| 松井: | 風もそうですがね、天井が無いということも大きい。なずんできた、夕暮れになってきた、など空の色の変化を見ながら食事ができるというのも大きな魅力だと思っています。川の音もそう。虫の音や川の音なども、喜ばれています。雲の形を見たり、星を見たり、せせらぎの音を聞きながら、食事ができ語らいができる。普通に都会の中でできることがすごいと思いますね。 |
| 武部: | 都会の真ん中で。 |
| 浅見: | 川床でお食事されていたみなさんが、手をお叩きやすねん。何やったん、て言うたらね、お月さんが東山に出てるんですわ。真正面に。みなさん、お食事しながら月見ができるいうて、手ぇ叩いて喜んではるんです。 |
| 武部: | 最初に市田さんが川床はちょっと高くて行きにくいような、特別なもの、とおっしゃっていましたが、今はどうですか。 |
| 久保: | 今はいろんなジャンルのお店がありますし、決して敷居の高いお店ばかりではありません。自分に合ったお店を見つけるために、このパンフレットを活用していただけたら。 |
| 市田: | 確かに、観光というものの質も変わりました。若い人も、団体も、いろいろな人が来られるよう、間口も広がりました。これは良いことだと思います。 |
| 武部: | 90軒以上のお店があり、いろいろな方が来られる。おもてなし、で一番気を使っておられるのはどんなところですか。 |
| 久保: | 自分が客としてお店に伺ったときに、自分が感動できるような、そんなおもてなしが基本ですね。 |
| 浅見: | うちも同じです。自分がよそさんへ行ったときに、自分が感激するおもてなし、それをして差し上げなさい、と言うてます。そのためにはチームワークも大切。 |
| 松井: | 皆さん、クラス会であったり接待だったり、いろいろな目的で来られます。目的に合ったサービスをして差し上げるのが、一番難しい。ご予約をいただいたときは、ご予算などある程度のことはお聞きしますが、目的まで根掘り葉掘り聞くわけにはいきません。そこで、会合の目的や意図を、お待ちの席などの様子で仲居が察するのです。この察する力。察知するセンサーを磨いてもらうことが重要なのです。 |
| 浅見: | このところ、携帯でございますやろ。電話番号も携帯しかない。そうすると、どちらからお越しですやろ、とお尋ねせんと。地方によって、薄味のところ、味の濃いところ、いろいろありますしね。 |
| 武部: | 川床を楽しむノウハウは予約するところから始まっているのですね。 |
| 松井: | 自然体で楽しんでいただくのがいいですね。川床はオープンエアーで個室とは違います。すぐお隣に別のお客様がいらっしゃいます。ですから、お互いに配慮することで、より楽しい時間がお互いに過ごせるのだと思います。私共は普通はそれぞれ個室でお食事をしていただくので、川床は例外なのです。少し隣に気を使うことが、川床を楽しむコツではないかと思いますね。 |
| 久保: | 最近はインターネットで予約される方が多いのですが、やっぱりお声を聞かせていただいた方が個人的にはありがたいですね。 |
| 市田: | 予約は絶対にしたほうが、安心して楽しめるわね。 |
| 武部: | 最後に、今後こういう川床にしていきたいというイメージをお持ちですか。 |
| 松井: | 床の多様化は歓迎しています。ただ、私共としては、できるだけクラシックな感じの川床を残していきたい。鴨川の川床という大きな枠組みは残しながら、中身はバラエティー豊かなものになればいいな、と思います。 |
| 市田: | 私は夏の風景として、川床は守っていただきたいと思っています。鴨川は天の恵みですので、鴨川の風景を大切にしながら、やはり風景の中にふさわしくないものがあれば、それを除去できるような、そういう姿勢を持っていただけたらありがたいなと思います。京都の風景を守りながら、川床も多様な形で続いていけばいいですね。決して特定の人のためのものではなく、予約すれば、どんな人でも京都の風を感じていただけるということを、ここで言っておきたいと思います。 |
| 武部: | 今日もいい風が吹いていますよ。 |